海洋部門の持続可能性を高めるためのシミュレーションの役割
船舶は、サイズと用途に基づいて分類され、多くのサブコンポーネントによって特徴付けられる、複雑なシステムです。それぞれが重要な役割を果たしています。個々のコンポーネントのシミュレーションは十分に確立されており、開発者やエンジニアはサブシステムについて深い知識を持っていますが、シミュレーション環境で統合されたフレームワークはまだまだ不足しています。開発者やエンジニアが運用する規模が大きくなる可能性を考慮すると、サブシステム間の相互作用を研究し、効率を最適化するために船舶の全体像を把握することが課題となります。
AVLのシミュレーションソリューションとシステムを統合することで、個々の部品の相互作用を把握し、船舶の効率を改善する包括的変更が可能になります。ユーザーは既存のシステムをより適切にモデル化や解析することができるようになり、同時に従来のアプローチより積極的に重要な持続可能性の基準を検討して組み込むことができます。メタ視点からのシミュレーションにより、エネルギー総消費量を削減する調整を実現できます。
環境への影響を低減するというプレッシャーにより、海洋部門はシステム効率向上という点で急速な革新で迫られています。AVLでは、ソフトウェアを用いたシステム統合による最適化を、2050年までに温室効果ガス排出量実質ゼロというIMO 2023の目標を達成するための第一歩と考えています。AVLは独自の立場から、シミュレーションの方法論、ツール、専門知識を自動車業界から海洋業界へと移行させることができ、これらの開発を可能に、さらに加速させることができます。

システムシミュレーションの適用可能性は、船舶の開発と運用の両方の側面を含む3つのフェーズで確認できます。コンセプトと設計の段階では、エンジニアリング要件を満たし、初期システム最適化スタディを実行、コンセプトの比較、システム要件およびドメインの境界条件の特定に加え、厳密なパラメータ調査を通じて、シミュレーションを使用し、システムを最適化します。最終的に、運用面ではパフォーマンスの最適化とメンテナンス計画、橋梁アシスタンスシステム、仮想センサー、シミュレーターに対応します。そうするとこのモデルは、ルートの最適化、パフォーマンスの向上、オンラインでの監視のサポート、シミュレーターでのエンジニアトレーニング等に使用することができるようになります。


海運業界におけるデジタルトランスフォーメーションの主な構成要素
統合型シミュレーションは、個々のシステムシミュレーションよりもはるかにデジタル化に依存します。まずは正確なデータの取得が必要で、引き続き、システムシミュレーションに入力するためのデータを分析します。デジタルツインとバーチャルツインの生成はシミュレーションプロセスの鍵であり、エンジニアにとって使いやすいインターフェースと完全な概要を提供します。視覚的な面や、マージされたシミュレーションブロックを利用した解析により、モデルベース開発を推進します。その結果、シミュレーションソリューションにより、仮想環境での仮想試験を実現し、船舶の開発や既存モデルの開発に要する時間とコストを削減します。
シミュレーションソフトウェアの要件
主な要件は、ユーザーインターフェースのモジュール構成であり、各ブロックが特定のドメインを表しています。次に、シミュレーションプラットフォームは過渡的な動作条件を必要とし、船舶の動的解析と、そのコンポーネントとサブシステムの相互作用の研究を可能にする必要があります。シミュレーションソフトウェアは、必要に応じた詳細レベルで、結果を提供します。これらはすべて、包括的なマルチドメインおよびマルチフィジックスコンピューティングプラットフォームで実現できます。
次に、統合によりシステムレベルのシミュレーションが可能になった3つのユースケースについて説明します。このシミュレーションは、AVLのソリューション、AVL CRUISE™ MおよびModel.CONNECT™を使用して特別に開発されたツールチェーンにより実現しています。CRUISE Mは、システム、サブシステム、コンポーネントの仮想解析と最適化を迅速かつ容易に行うための汎用シミュレーションプラットフォームです。このソリューションはプラットフォームの中核であり、利用可能ないくつかのライブラリのおかげで様々なモデルの作成を可能にし、関連するシミュレーションドメインのモデリングをカバーできます。
Model.CONNECTは、特定のサブモデルと全体のサブモデルを接続できるコシミュレーション環境で、コンポーネントは個別の非通信部品としてではなく統合されたシステムとみなされるため、船舶などの複雑で大きな構造物に最適です。サードパーティの製品をコシミュレーション(Simulinkオープンモデルなど)に統合して、モデルをより簡単に管理することができます。通常、これは複雑なシステムシミュレーションモデルを生成する際に適用され、連携を容易にするために複数のエンジニアリングチームがサブモデルの生成とメンテナンスを担当します。


ユースケース1:リアルタイム対応エンジンモデルによる燃料消費量の最適化
船舶の燃料消費量は、船舶の大きさ、船体の形状、積載量、航路、エンジン特性、航行速度などいくつかの要因によって異なります。船舶の燃料消費量が多いにもかかわらず、持続可能性の高い燃料に置き換えても費用対効果は高くありません。例えば、大型クルーズ船の低級燃料は1日あたり8万ガロンで13万米ドルかかりますが、船舶用ガスオイルは1日30万ドルものコストが発生します。
エンジンの開発と試験に関連するコストを考慮することも重要です。CRUISE M 1Dおよび0Dエンジンモデルなど、シミュレーションを駆使することで、エンジン設計段階の改善、ECU機能の開発とキャリブレーション、および実際の作業サイクルにおける燃料消費量とNOx排出量の推定をサポートできます。HiLシステムに大型エンジンモデルを搭載することで、数百万ドルの開発コストを削減できます。

第18回シンポジウム、"Sustainable Mobility, Transport and Power Generation"2で発表された論文では、船舶の推進とエネルギーシステムのバーチャルツインが作成され,環境への影響についても述べられました。これに向けて、N2、O2、CO2、NOX、HCおよびH2Oの経験的及び半経験的排出モデルが測定データに基づいて設定されました。モデルベース開発向けにクランク角分解エンジンモデルが作成され、現象論的燃焼モデルと排出モデルを通じてエンジンに関するより詳細なインサイトが得られました。
その後、簡略化されたマップベースのモデルが導出され、計算速度が向上したため、航海全体の効率的なシミュレーションに適しています。この船舶の構成は、トン数、船舶の抵抗、風などのパラメーターを考慮して、航海の瞬間的排出量、および累積的排出量を予測することができます。


1 https://www.marineinsight.com/videos/video-how-much-fuel-does-a-cruise-ship-consume/
2 出展: 論文 "Evaluation of LNG as alternative fuel for large marine engines by means of predictive emission model"
ユースケース2:船舶の効率の改善に向けた船舶運用のシミュレーション
車載システムは、主に熱の形で大量のエネルギーを浪費します。実際の挙動を分析して効果的な車載エネルギー管理を実装することが、燃料消費量およびその排出量を削減するための推進要因となります。例えば、ホテルの負荷は、発電機関または燃料電池(固体酸化物形燃料電池など)からエネルギーを生成することで賄うことができます。排出ガスに含まれるエンタルピーや内燃機関から放出される熱を利用して、プールを暖めたり、蒸気を生成したるすることができます。アプリケーションは、淡水冷却システム、各種水再加熱システム、蒸気回収システムなどのモデルを使用して、さらに拡張されていきます。
このような複雑な相互作用は、複数のパラメーターに依存して燃料およびエネルギー消費量を変化させます。したがって、システムシミュレーションは、船舶自体の3-DOFモデルと組み合わせて船舶制御戦略の最適化をサポートできます。モデル予測制御アルゴリズムは、個別のステップと最小限のコストで、目標座標と船体方位に到達するための舵角と船体速度を計算できます。適切な船舶力学モデルと組み合わせ、移動時間とエネルギーまたは燃料消費量を含む最適化コスト関数を介して、目標を定義し重み付けする柔軟なアプローチが成功のカギとなります。この設計例は、次のビデオで確認できます。
ユースケース3:海洋分野におけるハイブリッド化・電動化のトレンドをサポート
船舶のハイブリッド化・電動化の重要性が増す中で、CRUISE Mは、電気機械、燃料電池、バッテリーに関する既存のデータを活用して、ハイブリッド化と電動化のコンセプトを検討する可能性を提供します。
例えば、化学的、電気的および熱挙動ならびに経年変化過程に関するバッテリー特性の記述には、数種類の異なるモデルを用いることができますが、これらのモデルは物理モデルと経験モデル、抽象モデルに大別できます。システムレベルでのシミュレーションについては、CRUISE Mは2つの異なるモデルタイプが利用できます。
バッテリーモデルのパラメーター化は、CRUISE Mのバッテリーパラメーター化ウィザードでサポートされています。このツールは、さまざまな条件での充放電向けに測定された動的データからモデルパラメーターを計算します。
同様に、燃料電池とプラントのバランスの解析には、さまざまなサブモデルとウィザードを使用できます。PEMFC(LTとHT)とSOFCスタックの両方とプラントのバランスをシミュレートできます。次のチャートでは、燃料電池スタックとプラントバランスの、アノードとカソードの分岐におけるスタンドアロンモデルが示されています。


全体として、海洋分野は、厳しい環境目標を達成するための資源節約と海洋システムの最適化という点で、大きな変化を迎えることになるでしょう。AVLのシミュレーションソリューションは、船舶を個別のコンポーネントではなく統合型システムとしてモデル化できるようにすることで、革新的なアプローチを提供しています。こうした先進性は、2050年までの実質ゼロ目標を達成する上で不可欠です。シミュレーションソフトウェアは、船舶システム全体を最適化し、効率を高め、汚染を減らし、排出物を最小限に抑えるためのツールをエンジニアに提供します。仮想化を採用することで、運用パフォーマンスを向上させるだけでなく、海運業界の持続可能性を高めるために大きく貢献します。
海運業界に向けたソリューションに関しては、"Modelling and Simulation of a Fully Electric Hybrid Propulsion System for Passenger Ships Using AVL CRUISE™ M Software"をご参考ください。この論文では、主要な動力源として水素の可能性を探り、マルチフィジックスシミュレーションツールであるCRUISE Mによりシステムのダイナミクスとパフォーマンスを解析しています。
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Modelling and Simulation of a Fully Electric Hybrid Propulsion System for Passenger Ships Using AVL CRUISE™ M Software
The maritime industry's pursuit of sustainability drives the exploration of alternative fuels, with hydrogen emerging as a promising solution. This paper describes a comprehensive study on a fully electric hybrid propulsion system for passenger ships, utilizing hydrogen as the primary power source.
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