AVL CRUISE™ M 電気化学バッテリーモデルにおける活物質損失シミュレーション
Published on March 11, 2025 · 9 min read
自動車産業において、LIBは寿命だけでなく安全性にも影響を与える複数の劣化メカニズムに直面します。単純化して言えば、次の3つのモードに分類できます。
- 導電性の低下 (Conductivity Loss, CL)
材料がリチウムイオンや電子を伝導する能力が低下し、内部抵抗が増加する現象です。バインダーの分解、リチウムデンドライトの形成、空隙率の変化などが原因となります。
- リチウム在庫損失 (Loss of Lithium Inventory, LLI)
副反応によってリチウムイオンが消費される現象です。例えば、負極におけるSEI (固体電解質界面) 層の形成や、正極におけるCEI (カソード電解質界面) 膜の成長などがあります。これらの反応により、電池の動作に利用可能なリチウム量が減少します。
- 活物質損失 (Loss of Active Materials, LAM)
インターカレーション/デインターカレーションに利用可能な電極活物質の減少を指します。電極材料の溶解や、機械的ストレスによる亀裂や破砕といった物理的劣化が主な要因です。
この記事では、このLAMに焦点を当て、 AVL CRUISE™ Mの電気化学バッテリーモデル (ECB)が提供する機能について解説します。
シミュレーション結果を紹介する前に、前提として理解しておくべき事項があります。LIBの劣化は非常に複雑で、いまだ完全に理解されているわけではありません。しかし研究者の間では、LAMがLIBの容量・出力低下に大きく寄与していることが広く認識されています。そして、粗いモデルであっても「ないよりはずっと良い」というのが現実です。
CRUISE M 2024 R2 リリースでは、2種類のLAMモデルをサポートしています。
機械的ストレス劣化
充放電サイクル中、電極材料は膨張と収縮を繰り返します。セルの「呼吸」により、バインダーで固定された粒子の接触点は周期的に機械的ストレスを受けます。その結果、接触点が亀裂や破断を起こし、粒子が導電性マトリックスから切り離され、電気的に不活性化されます。これにより、インターカレーション/デインターカレーションに参加しなくなり、活物質が不可逆的に失われます。このモデルは、ヴェーラー疲労理論に基づいており、負極・正極の両方に適用可能です。
正極の溶解
一部の正極材料では、遷移金属が電解質中に溶出することがあります。特に高電位領域では、フッ化水素酸などによる酸攻撃によって発生しやすくなります。こうして活物質は不可逆的に失われます。このモデルは正極にのみ適用されます。
さらに、劣化を加速させるために、負極・正極における初期の活物質損失量を定義することも可能です。図1に示すように、ECB「Loss of Active Material」ページでは、チェックボックスを選択するだけで各モデルを有効化できます。
LAMモデルによるシミュレーション結果
シミュレーションの有用性は、現象が実際に重要であることを測定データで確認できる場合に初めて意味を持ちます。そこでまず、実験でLAMをどのように確認するのかを見た上で、ECB LAMモデルの有効性について検討します。
開回路電圧 (OCV) は、電荷量の関数として表されるKPIであり、電極材料の特性と初期状態のみで決まります。OCVは正極・負極の開回路電位 (OCP) の差として得られるため、両者の特徴が反映されます。例えば、黒鉛系負極では約50%充電時に特有のステップが現れます (図2参照) 。
劣化が進むと、OCV曲線は変化し、カットオフ電圧での最大容量が減少します。図3に示すように、LLIおよびLAMはOCV曲線を左方向に縮小させ、利用可能な容量を減らし、同じ充電率でも電圧レベルを低下させるため、出力の低下を引き起こします。
さらに、OCV曲線には追加情報が含まれています。図3に示した3つの劣化セルはいずれも約52Ahに容量が低下していますが、黒鉛ポテンシャル由来の電圧ステップ位置はそれぞれ異なります。これは微分信号 (dV/dQ) を確認するとさらに明確で、図4に示すように、ピーク位置や大きさは損失モードによって異なります。
このような微分量 (dV/dQ または dQ/dV) は、実験でLAMを特定する「決定的証拠」となります。しかし実際の電池で図4のように明瞭なグラフを得るには、極めて低い電流で完全放電を挟みながら多数のサイクルを繰り返す必要があります。つまり膨大な時間がかかり、それはコストにも直結します。
CRUISE Mでは、初期の活物質損失量を設定することで、この時間を短縮できます。ここまでの図も、劣化セルの初期条件を適切に設定することで得られたものです。
さらに、ECBのLAM機能は物理ベースの背景を持ち、実測で観察される傾向を説明することも可能です。例えば「極端な高SOC/低SOCを避けることで電池寿命を延ばし性能を維持できる」という事実があります。図5・図6に示すように、機械的ストレス劣化モデルの結果では、負極のLAM体積分率がSOCウィンドウに強く依存することが分かります。このセルの場合、40%~60% SOC範囲で繰り返し使用するよりも、70%~90% SOC範囲で繰り返す方が劣化が早いことが示されています (図5参照) 。
図6はさらに、SOCの極端値に達しないサイクル運用が電極への機械的ストレスを低減し、同じ運用時間でもLAMの進行を抑制することを確認しています。
正極溶解モデルは、特定の電圧レベルを超えた際に発生するLAMの洞察を与えます。図7は、異なる境界条件下で1000サイクルの充放電をシミュレーションしたセル容量の推移です。カットオフ電圧が最も重要な要因である一方、充放電後に休止を設けない、または充電時に定電圧 (CV) フェーズをスキップすると、容量劣化の抑制に寄与することも示しています。これは、充電中のセル電圧が低く保たれ、高電位で過ごす時間が短縮されるためです。
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