車内の空気質テスト

  • 技術記事

Michael Scheytt, Group Product Manager at AVL Analytical Technologies GmbH

私たちが日々吸っている空気の質は、健康や快適な暮らしに深く関わっています。屋外の大気汚染には多くの関心が寄せられていますが、車内のような密閉された空間における空気の質も見過ごせません。
「車内空気質(VIAQ)テスト」は、移動中の乗員が有害な物質にさらされないようにするための重要な検査です。
本記事では、車内空気質テストの目的や重要性、検査方法、そしてこの分野で進化を続ける技術について詳しくご紹介します。 

VIAQ Measurement in SHED Chamber

車両環境への新たな視点:排出ガスから車内空気質へ

これまで車両の排出に関する議論では、主にエンジンの燃焼によって発生する排気ガスに焦点が当てられてきました。
これらの排出物は、特に都市部において環境や健康に深刻な影響を及ぼす重要な課題です。
しかし近年、もうひとつの重要な側面が注目され始めています。それが「車内の空気質」です。
密閉された車内で過ごす時間が増える中、乗員の健康を守るためには、車内の空気環境にも目を向ける必要があります。 

車内の空気は、乗員が直接吸い込む呼吸環境であり、健康や快適性にとって非常に重要です。
車両の空気質は、使用される素材や製造工程、周囲の環境条件、そして乗員の行動など、さまざまな要因によって左右されます。
こうした背景から、これまでの排出ガス中心の視点を広げ、「車内空気質(VIAQ)」を現代の自動車開発に欠かせない要素として捉えることが求められています。

健康への影響と規制基準

車内の空気には、揮発性有機化合物(VOC)、粒子状物質(PM)、一酸化炭素(CO)、二酸化窒素(NO₂)、オゾン(O₃)など、さまざまな汚染物質が含まれている可能性があります。
これらの物質に長時間さらされることで、呼吸器系の不調やアレルギー反応を引き起こすほか、喘息や心血管疾患などの慢性的な健康問題につながることもあります。
特に、子どもや高齢者、持病を抱える方はこうした影響を受けやすいため、車内空気の質を適切に管理することが重要です。 

公衆衛生を守るため、各国の規制機関は屋内空気質に関する基準を定めており、車内もその対象に含まれています。
これらの基準では、揮発性有機化合物(VOC)や粒子状物質など、さまざまな汚染物質の許容濃度が明確に定められており、自動車メーカーがそれに準拠するためのガイドラインも提供されています。たとえば、国際標準化機構(ISO)は、車内空気質の測定に特化した「ISO 12219」シリーズを策定しています。
この規格では、車内のVOC濃度を評価するための試験方法や測定手順が詳細に定められており、乗員の健康を守るための重要な指標となっています。 (WHO, 2021; ISO, 2021)

材料と部品

車内の汚染物質の主な発生源のひとつが、製造時に使用される材料です。
プラスチック、接着剤、繊維、塗料などの素材は、時間の経過とともに揮発性有機化合物(VOC)を放散する可能性があります。
こうした放散は「オフガス」と呼ばれ、車両の製造後も数か月から数年にわたって続くことがあります。 

外部環境の影響

車内の空気は、外部環境からの影響も受けます。
他の車両の排気ガスや工場からの排出物、さらには粉じんなどの汚染物質が、車内に入り込む可能性があります。
車両の空気取り入れシステムに適切なフィルターが備わっていない場合、これらの外部汚染物質が車内に侵入し、空気質を悪化させる原因となります。

乗員の行動による影響

喫煙、飲食、整髪料や香水などの個人ケア製品の使用といった乗員の行動も、車内の空気質に影響を与える要因となります。
これらの行動によって、汚染物質や臭気が新たに車内に持ち込まれ、空気環境をさらに悪化させる可能性があります。

Vehicle Interior Pollutants and Sources
Vehicle Interior Pollutants and Sources
Figure 1: Vehicle Interior Pollutants and Sources

サンプリング手法

車内の空気質を評価するには、正確なサンプリング手法が不可欠です。空気サンプルを採取する方法には、パッシブサンプリング、アクティブサンプリング、リアルタイムモニタリングなど、いくつかの種類があります。 

  • パッシブサンプリング: 一定期間にわたって空気中の汚染物質を吸着する「拡散型サンプラー」を使用します。パッシブサンプリングは、長期的な空気環境のモニタリングに適しており、汚染物質の平均濃度を把握するのに役立ちます。
  • アクティブサンプリング: フィルターや吸着管などの装置に空気をポンプで送り込み、汚染物質を採取します。この方法は、より多くの空気を取り込むことができるため、測定精度が高くなります。
  • リアルタイムモニタリング: センサーや分析装置を使って、空気中の汚染物質の濃度を継続的に測定します。この方法は、即時にデータを取得できるため、空気質の変動を素早く検知することが可能です。 (ASTM, 2018)

分析技術

空気サンプルを採取した後は、汚染物質の濃度を調べるために分析が行われます。分析には、ガスクロマトグラフィー(GC)、質量分析(MS)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)など、さまざまな手法が用いられます。

  • ガスクロマトグラフィー(GC): 空気サンプル中の揮発性有機化合物(VOCs)を分離・定量するために広く使われている分析手法です。この方法では、サンプルをカラムに通すことで、化合物を揮発性の違いによって分離し、検出器で測定します。
  • 質量分析(MS): MSは、GCと組み合わせて使用されることが多く、GC-MSとして汚染物質の特定と定量に活用されます。MSでは、イオンの質量電荷比を測定することで、サンプルの化学組成に関する詳細な情報を得ることができます。
  • 高速液体クロマトグラフィー(HPLC): 揮発性が低い有機化合物や半揮発性の化合物の分析に使用されます。この手法では、化合物が固定相と移動相との相互作用によって分離され、さまざまな検出器を用いて測定されます。 (ASTM, 2018)

KOREA MOLIT 2019-144 

「KOREA MOLIT 2019-144」は、韓国の国土交通部によって制定された規制であり、自動車の室内に含まれる有害物質の許容レベルについて厳格な基準を定めています。特に、揮発性有機化合物(VOC)やホルムアルデヒドを対象としており、新車に対して定期的な検査と認証を義務づけることで、乗員が有害な排出物によって健康を損なうことのないよう保護することを目的としています。 (MOLIT, 2019) 

VIAQ Testing Process Overview KOREA MOLIT 2019-144
Figure 2: VIAQ Testing Workflow Overview KOREA MOLIT 2019-144

CHINA GB 27630-2017 / HJT400-2007

中国の「GB 27630-2017」と「HJT400-2007」は、自動車の室内に含まれる有害物質の管理と削減を目的とした規制です。「GB 27630-2017」では、揮発性有機化合物(VOC)、アルデヒド類、ケトン類などの物質について、具体的な濃度の上限値が定められており、自動車メーカーは製造過程で厳格な検査を実施することが求められます。一方、「HJT400-2007」は、これらの有害物質を正確に測定するための試験方法や手順を規定したガイドラインです。これら2つの規制は連携して、中国国内で製造・販売される車両が高い空気質基準を満たすように設計されており、消費者が有害化学物質にさらされるリスクを低減する役割を果たしています。 (MEE, 2007; SAC, 2011)

ISO 12219

「ISO 12219」は、道路車両の室内空気質を測定・評価するための包括的な国際規格です。複数のパートで構成されており、それぞれが異なる側面の試験方法に対応しています。たとえば、揮発性有機化合物(VOC)、アルデヒド類、その他の汚染物質のサンプリングおよび分析に関するガイドラインが含まれています。この規格は、試験手順や評価基準の統一を促進することで、世界的な空気質基準の調和を図り、国際的な自動車取引を円滑にするとともに、車両が一貫した安全・衛生基準を満たすことを保証します。ISO 12219のような規格は、車内空気質の向上に向けた世界的な取り組みを象徴しており、公共の健康と安全への強い意志を反映しています。メーカーがこれらの基準を遵守することで、消費者に対して車両の安全性と清潔さを保証し、より健康的なドライビング体験の提供につながります。 (ISO, 2021)
 

Table1: 法的規制値(mg/m³)
 中国韓国
アセトアルデヒド0.200.30
アクロレイン0.050.05
ベンゼン0.050.03
エチルベンゼン1.001.00
ホルムアルデヒド0.100.21
スチレン0.260.22
トルエン1.001.00
キシレン1.000.87

低排出材料の開発

車内の空気質改善における重要な進展のひとつが、低排出材料の開発です。自動車メーカーは、揮発性有機化合物(VOC)などの汚染物質の排出量が少ない素材の使用を積極的に進めています。たとえば、低VOC接着剤や水性塗料などの導入により、車内に放散される有害物質の濃度を大幅に低減することが可能になっています。これらの材料は、乗員の健康を守るだけでなく、環境負荷の軽減にもつながります。

革新的な空気清浄システム

現代の自動車には、高度な空気清浄システムが搭載されており、車内の空気中に含まれる汚染物質を効果的に除去することが可能となっています。これらのシステムには、微粒子を捕捉する高性能粒子空気(HEPA)フィルター、有害ガスを吸着する活性炭フィルター、そして光触媒酸化(PCO)技術などが用いられています。 さらに、一部の車両には空気イオナイザーが搭載されており、粒子に電荷を与えて集塵板に付着させることで、空気中の微粒子を除去する機能を備えています。

スマート空気質モニタリング

車両にスマート技術が導入されたことにより、リアルタイムで空気質を監視するシステムが開発されました。これらのシステムは、センサーを用いて汚染物質の濃度を継続的に測定し、乗員に対して空気質に関する情報をリアルタイムで提供します。また、一部のシステムでは、空気の状態に応じて換気やフィルターの設定を自動的に調整し、最適な空気環境を維持する機能も備えています。 (Lohani et al., 2022)

新たな汚染物質への対応

車両技術の進化に伴い、新たな汚染物質が発生する可能性があります。たとえば、電気自動車(EV)では、従来とは異なる素材や部品が使用されるため、排出特性も変化することがあります。こうした新たな汚染物質に対応するためには、研究者やメーカーが常に注意を払い、試験方法を柔軟に見直していくことが求められます。

標準化の強化

車内空気の試験に関する規格はいくつか存在していますが、地域や規制機関ごとにばらつきがあり、さらなる調和と標準化が求められています。これにより、車両の製造地や試験実施場所に関係なく、空気品質の試験結果が一貫性を持ち、比較可能なものとなります。

消費者意識の向上

車内の空気環境を良好に保つためには、消費者の役割が非常に重要です。汚染物質の発生源や空気の質の重要性、そしてそれを改善するために取るべき具体的な対策について、消費者への啓発が不可欠です。これには、エアフィルターの定期的なメンテナンス、汚染物質を発生させる行動の回避、低排出製品の使用などが含まれます。

車内空気の試験は、乗員の健康と快適性を確保するうえで非常に重要な要素です。汚染物質の発生源を理解し、効果的な試験手法を導入し、技術の進歩を活用することで、より安全で健やかな車内環境を実現することが可能になります。自動車業界が進化を続ける中で、車内空気の質に関する課題に取り組み、チャンスを活かしていくことは、すべての乗員に「新鮮な空気」を届けるために欠かせない取り組みとなります。 

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