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バッテリー熱暴走における発熱・ガス放出・粒子放出の統合モデリング手法

Published on February 04, 2026 · 2 min read

電動化パワートレインの開発において、バッテリーの熱暴走防止は依然として最重要課題の1つです。これは自動車分野に限らず、あらゆる電動システムに共通する技術的チャレンジとなっています。
AVLの 2025 R2 リリースでは、AVL FIRE™ Mにおいてセルの発熱、ガスベント、粒子放出を統合的に扱うカップリングモデルが新たに導入されました。本モデルは、熱暴走の化学反応動力学と流体・粒子輸送モデルをシームレスに統合し、さらに必要となる熱力学および輸送特性も含めて取り扱います。これにより、固体・流体・粒子領域にまたがる2D/3Dシミュレーションの包括的な解析が可能となります。

Blog Header: A Complete Modelling Approach for Battery Thermal Runaway Cell Heat Release, Venting and Particle Release

本記事では、発熱の開始からガスおよび粒子の放出に至るまで、バッテリー熱暴走の一連の挙動を一貫して再現するモデリングワークフローを紹介します。
熱暴走時に発生するガスは、主に液体電解液の蒸発と、電池活物質における熱暴走反応に起因します。熱暴走が進行するにつれて、活物質は物理・化学的な変化を伴い、その進行度に応じてガスおよび粒子が生成されていきます。
本モデルでは、こうした熱暴走の進行を0次元の集中定数モデル(0D lumped model)として取り扱い、反応の進行を動力学的に評価しています。電解液の蒸発についてはTanasawaの相変化モデルを採用し、必要となる飽和物性はPDB材料データベースから取得します。
また、各熱暴走反応では複数のガス成分が生成されます。例えば、SEI分解ではC₂H₄、CO₂、O₂といったガスが発生します。これらの生成割合はユーザーが事前に設定するパラメーターとなっており、熱暴走の進行と連動して各成分の発生量が決まる仕組みです。このような入力値は、実験データや文献に基づいて与えるケースが一般的です。
さらに、粒子の生成量については経験的な相関式を用いてモデル化しています。これにより、ガスだけでなく固体粒子の放出挙動も含めた評価が可能になります。
なお、本モデルの詳細な定式化やパラメーター設定については、文献[1]に詳述されています。

図1に示すモデリングワークフローは、以下の通りです。

  • バッテリー活物質における熱暴走反応
  • 電解液の蒸発
  • バッテリー内部におけるエンタルピーおよびガスの生成
  • 発生したベントガスが一定体積のヘッドスペースに蓄積
  • ヘッドスペース内における圧力・密度・組成変化および熱力学特性の評価
    (ガス組成は理想気体の状態方程式に従う)
  • ホールドアップ容積内の圧力と、バルブ開弁のトリガー圧との比較
  • 等エントロピー・ノズル流れに基づくベントガスの質量流量の算出
  • 周囲流体領域へのガス放出およびそれに伴うエンタルピー輸送
  • 流体領域への粒子放出
Figure 1: Model Workflow for Venting of Gas and Particles
図1:ガスおよび粒子放出のモデリングワークフロー

これまで、熱暴走のモデリングは主に試験データに依存した手法が用いられてきました。具体的には、発熱率、ベントガス量、粒子放出量といったパラメーターを、テストベンチで取得したデータから与えるアプローチです。
この手法は確立されており広く受け入れられていますが、いくつかの制約もあります。まず、実セルが物理的に存在していることが前提となる点です。また、試験自体が高コストかつ破壊的であるため、開発初期段階での適用が難しく、新しいセルを導入するたびに追加試験が必要になります。
一方で、セル内部の詳細情報が不明な場合や、その状態が長期間変わらない前提であれば、このような試験ベースの手法は依然として有効です。

しかし近年では、熱暴走現象をより深く理解し、試験データへの依存を低減するモデリング手法の研究が進んでいます。そこで重要となるのが、カップリングアプローチです。

図2は、支配方程式および各サブモデルの関係を示したフローチャートです。セルの発熱は赤、ガスベントは緑、粒子放出は青で示されています。
セルの発熱は化学反応に基づいてモデル化され、その反応生成物が専用のサブモデルを通じてベントガス組成の算出に用いられます。このように、発熱とベント挙動を連成させている点が本モデルの中核であり、従来の計測ベース手法との大きな違いです。
さらに、粒子の質量放出も同時に評価されます。これらすべての結果は3D CFDソルバーに統合され、相互作用を含めた解析が可能となります。

このアプローチにより、試験データへの依存を大幅に低減できる可能性があります。また、より高精度な熱暴走解析を実現し、ソフトウェアとしての価値向上にもつながります。
ただし、AVLの提供価値はソフトウェアにとどまりません。本モデルの有効性を示すためには、実際の適用による検証が不可欠です。この点については、以下で詳しく紹介します。

Figure 2: Flowchart for the coupling of battery cell heat release, venting and particles in the coupled approach.
図2:カップリングアプローチにおけるセル発熱・ガスベント・粒子放出の連成フロー

テストケース

本モデルの評価には、図3(a)に示す3つの角形セル(173 × 125 × 45 mm)から構成されるシンプルなバッテリーモジュールを用いています。
セルは空気で満たされた容器内に配置され、それぞれCell 1、Cell 2(中央)、Cell 3と定義します。シミュレーションでは、中央のCell 2を一様に加熱し、熱暴走に至らせます。その結果、隣接するCell 1およびCell 3へと熱暴走が伝播する挙動を再現しています(図3(b))。
熱暴走の進行は0次元モデルで表現され、Renら[2]によって提案された反応メカニズムを用いています。このメカニズムは、電池活物質の6つの分解反応で構成されており、本解析では3セルすべてに適用しています。

Test case geometry (top left) and mean temporal profiles for temperature (top right), battery active material fraction and gaseous species fractions (bottom left) and total amount of venting gas released (bottom right).
(a) 3つの角形セルからなる解析モデル (b) 熱暴走時の温度変化
Figure 3B
(c) 活物質成分の減少およびガス生成挙動 (d) ベントガス累積質量

図3:解析モデル(左上)および温度・活物質・ガス生成に関する時間変化(その他)

ベントガスの噴出挙動は図4に示しています。図4(a)はベントガスの流速分布、図4(b)はメタン(CH₄)の質量分率を示したものです。
解析結果から、熱暴走のピーク時にはガス流速が数百 m/s に達することが確認できます。一方で、本モデルでは固体側の熱暴走進行を0次元で表現しているため、ガス速度、質量流量、圧力といった結果が過大評価される傾向があります。
そのため、本モデルの適用範囲は、例えばセルが一様に加熱されるような条件に限定される点には注意が必要です。

(a) Venting Gas
(a) ベントガス流速
(b) CH4 Mass Fraction

(b) CH₄質量分率

図4:ベントガスの流速およびCH₄濃度分布

本モデルの適用フローの概要を図5に示します。ただし、どのようなモデルであっても現実を完全に再現することはできません。そのため、本モデルについても実際のバッテリー熱暴走試験と比較しながら検証を進めることが重要になります。

現在、本モデルの検証およびキャリブレーションを進めています。Virtual Vehicleと連携し、特定のNMCパウチセルを対象にモデルのパラメーター設定手法(キャリブレーションワークフロー)の構築に取り組んでいます。
この取り組みの目的は、単にモデルを適合させるだけでなく、キャリブレーションにどの程度の調整が必要か、また、本アプローチの利点および制約は何かを実務レベルで把握することにあります。
さらに、このプロセスを通じて得られたデータは、特定セルに対するデフォルトパラメーターセットとして整備され、ユーザーが解析を開始する際の初期値として活用可能になります。

Figure 5: Flowchart for the Workflow for Applying the Model
図5:モデル適用およびキャリブレーションのワークフロー

キャリブレーションは現在順調に進んでおり、従来手法と比較してより多くの知見が得られています。図6をご覧ください。
黒の破線は、バッテリーセルに取り付けた熱電対による実測温度を示しています。一方、赤線はシミュレーション結果であり、温度上昇の挙動を良好に再現できていることが分かります。
さらに重要なのは、3次元解析によって得られる内部挙動の可視化です。図では、中央のセルが2枚の鋼板に挟まれた状態で配置されており、右方向へベントガスを放出している様子が確認できます。
このガス放出は、電解液の蒸発段階(比較的穏やかな温度上昇)と完全な熱暴走状態(数百度規模の急激な温度上昇)の両方で発生しており、いずれの挙動も本モデルで捉えることが可能です。

Results Comparison to Testbed Data
図6:試験データとの比較結果

最新のFIRE Mリリースでは、セルの発熱、ガスベント、粒子放出を単一のワークフローで統合的に扱うカップリングモデルを導入しました。
本アプローチは、従来の試験データに大きく依存する手法から一歩進み、最小限の試験データに加えて反応動力学や材料物性に基づいた予測的なシミュレーションを可能にします。
初期検証として代表的なバッテリーモジュールに適用した結果、一部のケースではベントガス速度やホールドアップ圧力が過大評価される傾向も確認されています。
現在は、特定のNMCパウチセルを対象にモデルの検証およびキャリブレーションを進めており、必要な調整項目や本アプローチの利点・制約について理解を深めています。
キャリブレーションは順調に進展しており、従来よりも多くの知見が得られています。また、本モデルにより、電解液の蒸発段階から完全な熱暴走に至るまでの挙動を一貫して捉えることが可能です。

今後の改善点

テストケースにおいて確認された流量や圧力の過大評価といった課題に対応するためには、さらなるモデル改良が必要です。現状では、熱暴走の進行を0次元(0D)の固体反応モデルで表現していることが、こうした乖離の一因と考えられます。

また、モデルの適用範囲を拡張するうえでも改善の余地があります。例えば、不均一な系への適用や0Dモデルの予測精度向上に向けては、3次元(3D)の固体反応モデルの導入が有効と考えられます。

参考文献:

Wang et al, Revealing particle venting of lithium-ion batteries during thermal runaway: A multi-scale model toward multiphase process, eTransportation, Volume 16, 2023, 100237, ISSN 2590-1168, https://doi.org/10.1016/j.etran.2023.100237.

Ren et al, Model-based thermal runaway prediction of lithium-ion batteries from kinetics analysis of cell components, Applied Energy, Volume 228, 2018, Pages 633-644, ISSN 0306-2619, https://doi.org/10.1016/j.apenergy.2018.06.126.

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