未来のモビリティ:経済性とCO₂削減は両立可能か

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Martin Rothbart
エネルギー&サステナビリティシニアプロダクトマネージャー

Martin4年以上にわたり、エネルギー、⽔素、代替・合成燃料、そして製品ライフサイクル全体におけるサステナビリティ分野のビジネス開発を担当しています。その業務には、世界各地域における将来の市場ポテンシャルの予測や分析も含まれています。

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国際社会全体として、エネルギーの安全保障と現在の生活水準を損なうことなく、CO₂排出実質ゼロ(ネットゼロ)への移行を進めています。しかし、モビリティ分野の移行にはコストが伴い、将来の「誰もが利用できる価格の個人移動」の実現を危うくするおそれがあります。一方で、対策を取らない場合はさらなる高コストを招くことになります。

New Energy Consulting

この記事の主なポイント

  • 地球全体の温室効果ガス排出を抑え、CO₂排出量を削減するには、2050年まで毎年9兆ドルの投資が必要になる
  • 対策を取らなかった場合、2050年の世界経済への気候変動の悪影響は、年間23兆ドルに達すると予測されている
  • 輸送部門の排出量は1990年〜2021年の間、年平均約1.7%で増加しており、最終消費部門の中で最も速い伸びを示している
  • 化石燃料依存度の低いモビリティは、燃料コストなどにより短期的には高くつくが、2030年以降にはコスト面で従来型と同等になると見込まれている

ネットゼロにはコストがかかる – しかし、何もしない場合も同じく大きなコストが発生

マッキンゼーの調査 「The net zero transition」 によると、2050年までにネットゼロを達成するために必要な総コストは約275兆ドル、年間にすると約9兆ドルにのぼると試算されています。また、同調査では、新興国や資源に依存する地域ほど、この移行の影響を強く受ける可能性が高いと指摘されています。仮に、最も豊かな工業国に属する上位5億世帯がその負担を引き受けるとした場合、2050年までの総負担額は1世帯あたり約55万ドル(年間換算で約18,000ドル)になる計算です。

試算によると、2030年頃には、電気、⽔素、e-fuel(合成燃料)などのさまざまな代替エネルギーが、走行1キロあたりのコストでおおむね同水準に近づくと見込まれています

- エネルギー&サステナビリティ シニアプロダクトマネージャー Martin Rothbart

 スイス再保険の報告書よると、もし何の対策も講じなければ、2050年には気候変動によって世界の経済生産は1114%減少すると見込まれています。これは、年間で23兆ドルもの世界経済の損失に相当し、アメリカのGDPを上回る規模です。気候変動の影響は地域によって異なり、アジアが最も大きな打撃を受けると予測されています。また、気候変動の影響はすでに現れており、 Christian aidの報告 によれば、経済的損失が30億ドルを超える災害が、年間で10件も発生しています。  

化石燃料依存の低減という未来への変革オプション

世界のエネルギー需要の大部分は依然として化石燃料に依存しており、産業全体で見ても一次エネルギー需要のうち再生可能エネルギーが占める割合はわずか14%にすぎません。道路輸送に焦点を当てると状況はさらに厳しく、90%以上が石油由来の燃料に依存しており、これが同セクターの年間温室効果ガス排出量の大きな要因となっています。

EUの排出量取引制度(ETS)では、CO₂排出回避のためのコストが上昇しています。しかし、ETSによって回避されるCO₂量と、バッテリー電気自動車(BEV)向けのインセンティブとの比率は依然として高いままで、結果的に運輸部門からエネルギー部門へ排出源が移るリスクも指摘されています。

さらに、代替・グリーン輸送オプションは、従来型よりも設備投資(CAPEX)や運用コスト(OPEX)が高くなる傾向があります。それでも、 BloombergNEF (BNEF) は、バッテリー価格の低下を背景に、BEV2026年には内燃機関車と価格面で同等になると予測しています。商用車に関しては、長距離輸送では2030年に燃料電池(FC)パワートレインがゼロエミッション車の中で最も低い総保有コスト(TCO)を達成すると見込まれています。TCOはドライバーコストや燃料コストの影響を強く受けますが、燃料価格は世界的なエネルギー危機により一段と不安定になっています。

現在、非化石エネルギーキャリア(電気・水素・e-fuel など)は化石燃料に比べて不利なコスト構造にあります。しかし、2030年頃には、電気、水素、e-fuel といった代替エネルギーが、走行1kmあたりのコストでおおむね同水準に収束すると予測されています。ただし、具体的なコストは国・技術ごとに異なります。

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